ゴッホの人生 5
ロンドンに移った彼の心には、時々オランダの記憶がよみがえります。
それは、
「ぼくには自然と芸術と詩がある。
もしそれで充分でないとしたら、いったい何が足りないというのか。
だからといって、ぼくはオランダを忘れはしない・・・特にハーグとブラバントは」
とか、
「どこの庭でも、ライラックやさんざしや、きばなふじの花盛りだ。
そして栗の木が美しい。
人が真に自然を愛するなら、その人はいたるところに美を見出すことが出来る。
でもぼくは、時々、オランダを、ことに家のことをなつかしく思うのだ」
・・・といったふうに、言わば付けたり的に思い起すにすぎないのです。
ロンドンでの最初の下宿は彼にはいささか高すぎたので、9月に、彼はブリクストン区ハックフォード街87番地のロワイエ夫人の下宿に移るのですが、この新しい下宿をテオに知らせる手紙は、ほとんど有頂天と評したいほどのものです。
「テオ、ぼくの新しい下宿のことについては君も聞いたはずだが、ぼくは君に見てもらいたくて仕方がない。
今、ぼくは長いこと望んでいたような部屋を持ったのだ。
天井が傾いていたり、青色の壁紙の縁が緑色になっていたりするような部屋ではない。
今、いっしょに住んでいる家族は非常に楽しい。
ここの家は、少年たちのための塾を開いている」。